意志が弱いわけでも、怠けているわけでもない
「やったほうがいいのは、わかっているんですけどね…」
この言葉を、私は何百回、何千回と聞いてきたでしょうか。
- 早く寝たほうがいい
- 運動したほうがいい
- 準備は前倒しがいい
- 感情的にならないほうがいい
- 部下の話をちゃんと聞いたほうがいい
…わかっている。でも、できない。
このとき多くの人は、自分を責めます。
「意志が弱い」「自分はダメだ」「続かない性格なんだ」と。
ですが、EQ(心の知能)の視点から見ると、この自己評価は ほぼ的外れ です。
1. 「わかっているのにできない」は、能力不足ではない
まず、はっきりさせておきたいことがあります。
わかっているのにできない人は、能力が低いわけではありません。
むしろ、理解力がある人ほど、この状態に陥りやすい。
なぜなら…
「わかっている」ということは、
すでに頭(知性)は十分に働いているという証拠だからです。
問題は「知識」ではありません。
問題は 感情 です。
2.行動を止めているのは「意志」ではなく「感情」
人は、感情を置き去りにしたままでは行動できません。
- 不安
- 面倒くささ
- 失敗への恐れ
- 自信のなさ
- 過去の嫌な記憶
これらの感情が未処理のまま残っていると、人は「やろう」と思っても、体が動かなくなります。
これは怠けでも甘えでもなく、脳の自然な防御反応 です。
EQの観点では、「できない=感情がブレーキを踏んでいる状態」と捉えます。
3. EQが低い状態で起きている“心の中”
「わかっているのにできない」状態のとき、心の中では、こんなことが起きています。
・失敗したらどうしよう
・うまくできなかったら恥ずかしい
・どうせ自分は続かない
・今は疲れているから無理
これらはすべて 感情の声です。
そして多くの人は、この声に無自覚なまま、
「とにかくやらなきゃ」
「気合いでやろう」
「もっと自分を追い込もう」
と、感情を無視して行動しようとする。
これが、うまくいかない最大の理由です。
4. EQが高い人は「できない自分」を責めない
EQが高い人は、「できない自分」を責めません。
その代わり、こう考えます。
「今、私は何に引っかかっているんだろう?」
「この行動を止めている感情は何だろう?」
つまり、行動の問題を、感情の問題として読み解く のです。
- 不安なら → 安心材料を先につくる
- 面倒なら → 5分で終わる形に分解する
- 怖いなら → 誰かに相談する
- 疲れているなら → 休むことを選ぶ
EQとは、「感情を抑える力」ではなく、感情を読み取り、行動に変換する力 なのです。
5. 「知っている」から「できる」への橋渡し
ここで、知行合一の考え方が重要になります。
知行合一とは、「本当に知っているなら、行動に現れる」という思想です。
しかし現代では、「知っているのにできない自分」を責める方向でこの言葉が使われがちです。
EQの視点では、こう言い換えます。
行動に移せていないのは、“知”が足りないのではなく、“感情の橋渡し”が足りないだけ。
この橋渡し役こそが、EQです。
6. EQが高い人の「できない」との付き合い方
EQが高い人も、できないときはあります。
サボる日もあるし、先延ばしもするし、落ち込む日もある。
でも、決定的に違うのはここです。
- できない自分を責めない
- 感情を無視しない
- 小さな一歩に落とし直す
たとえば…
「今日は全部は無理。でも、これだけはやろう」
「完璧じゃなくていい。途中まででOK」
「まずは環境だけ整えよう」
この “自分との対話”の質が、行動できるかどうかを分けています。
7. 「できない」は、成長のサインでもある
実は、「わかっているのにできない」と感じるときは、
成長の一歩手前であることが多い。
- 価値観が変わり始めている
- 今までのやり方が合わなくなっている
- 次のステージに行こうとしている
その移行期に、感情が揺れ、行動が止まる。
EQが高い人は、この状態を「ダメな自分」ではなく、「変化のサイン」として受け取ります。
8. まとめ:「わかっているのにできない」は、EQを育てるチャンス
「わかっているのにできない」
それは、意志の弱さでも、性格の問題でもありません。
- 感情が未処理なだけ
- 橋渡しが足りないだけ
- EQを使う場面なだけ
EQとは、自分をコントロールする力ではなく、自分と協力する力です。
次に「またできなかった…」と思ったとき、ぜひこう問いかけてみてください。
「私は、どんな感情を置き去りにしているだろう?」
そこに気づけた瞬間、行動への扉は、静かに開き始めます。